愛猫家の敵 難病 FIP 猫伝染性腹膜炎 臨床現場から
動物病院の獣医師にとって長年診断・治療に困っていた病気に猫伝染性腹膜炎 FIPがあります。
この病気の原因はコロナウイルス FCoVです。私たち人間もこのウイルスには大変ひどい目に遭いましたが、猫にとっても命に関わるウイルスです。
しかし、このウイルスに感染しているからといって、全ての猫が猫伝染性腹膜炎を発症するわけではないのです。
このことが、この病気の診断を難しくしています。
さらにこの病気を診断しても十分に改善へ繋げる治療法がありませんでした。
そのためにこの病気を疑った時にそのことを飼い主さんに伝えるのは私にとって本当に辛いことでした。
特に、当院でこの病気を診断・治療することが多いのは、ペットショップから来た2歳に満たないまだまだかわいい盛りの若い猫だからです。
しかし、獣医学の進歩により検査の充実、コロナ禍での人の新薬の開発により以前よりも高い診断へつながる検査、格段に治癒率が高い薬が登場しました。
私の病院でも、α1-AGという急性相反応蛋白を測定する機器を導入し、院内で疑いのある猫の血液検査を行って、その結果をもとに追加の検査を依頼し精度の高い診断を迅速に行えるようになりました。
また、治療についてもモラヌピラビルという内服薬を投与して治療しています。
しかし、このように診断・治療が進歩しても助けてあげられなかった子猫もいるので今後は予防が重要だと思います。
次に予防についてお話します。
残念ながら日本では猫伝染性腹膜炎にはワクチンはありません。
では、私たち獣医師とご家族は、どのような予防対策がとれるでしょうか。
まず、新しく猫を向かい入れたらPCR検査で猫の便を調べて、腸管の中にコロナウイルスFCoVが存在しないかを確認します。
存在しない場合は、一般的なワクチン接種を行い、猫白血病、猫エイズに感染していないかを確認しておきましょう。
コロナウイルスが存在していた場合も、ワクチン接種をし、猫白血病 FeLVと猫エイズ FIVの感染の有無を確認します。
FeLV・FIVの感染がない場合は、ストレスの少ない環境下で整腸剤等を使って腸内環境を整え経過をみていきます。
もし、猫白血病、猫エイズに感染している場合は、猫伝染性腹膜炎を発症するリスクが高くなると考えられるので、飼育にはいっそうの注意が必要です。
腸内の環境を整え免疫力を維持するために幾つかの予防策を生涯にわたって行う必要があります。
整腸剤や漢方薬、猫インターフェロンといったものの投与が必要になります。
また、他の感染症をしっかり予防するためにワクチンは欠かせません。
それでも、発症が確実に抑えられるものではありません。
新しく子猫を迎えた方は、猫コロナウイル FCoV、猫白血病ウイルス FeLV、猫エイズウイルス FIVをチェックして必要な予防をしてくださいね。
あさま動物病院 獣医師 原浩太郎