犬と猫の糸球体疾患について|糸球体疾患の正体とは?
犬や猫に見られる泌尿器系の病気の中で、免疫系の異常によって発生することが多い疾患の一つが糸球体疾患(しきゅうたいしっかん)です。
糸球体疾患は他の泌尿器疾患と似ているため、正確な診断を下すには詳細な検査が必要です。
今回は犬と猫の糸球体疾患について、特に当院での検査・治療方針に焦点を当てて解説します。
■目次
1.糸球体疾患とは?
2.症状
3.原因
4.診断方法
5.治療方法
6.予防法やご家庭での注意点
7.まとめ
糸球体疾患とは?
腎臓には、血液をろ過して老廃物を除去するための重要な部位として「糸球体」があります。糸球体とは、細い毛細血管が毛糸の球のように絡まった形状をしており、この特徴的な構造からその名が付けられました。
糸球体疾患は、さまざまな原因によって糸球体が障害される病気です。この障害が毛細血管の透過性を変えてしまうことで、血液のろ過が適切に行われなくなり、タンパク尿(尿中にタンパク質が漏れ出てしまう状態)が発生します。
糸球体は一度損傷を受けると元には戻らないため、徐々に腎臓の機能が低下し、最終的には慢性腎臓病へと進行していくことになります。
症状
タンパク尿の程度によって症状は異なりますが、初期段階では体重が減る、何となく元気がない、といった特徴のない症状が現れます。
タンパク尿が重度になると、浮腫(皮下に水が溜まる状態)、腹水(お腹の中に水が溜まる状態)が現れ、体のさまざまな部位に水分が異常に溜まります。
これに加えて、多飲多尿(たくさん水を飲んでたくさん尿を出す)や嘔吐などの症状も見られます。
これらの症状は腎機能の低下と関連しており、タンパク尿が進むにつれて腎臓へのダメージが増していくことを示しています。
原因
犬や猫の糸球体疾患においては、多くの場合が免疫介在性の反応によって発生するといわれています。主な原因としては感染症、腫瘍、その他の免疫関連疾患が挙げられますが、これらの病気が特定できないことも多々あります。
これらの病気が糸球体にどのように影響を与えるかというと、免疫細胞や抗体が本来の防御反応を超えて糸球体の毛細血管に損傷を加えることで、糸球体の機能が低下します。結果として、正常に血液をろ過できなくなり、タンパク尿などの症状を引き起こすことになります。
診断方法
糸球体疾患の診断にはタンパク尿を検出することが重要です。そのため、犬と猫の初期診断ではまず尿検査から始めます。
当院では尿検査の診断で、IDEXX社製の「SedV ue Dx」最新の機材で尿沈渣の分析を行っています。
<犬の場合>
尿比重が低くタンパク尿が確認されると、糸球体疾患の疑いが強まります。あわせて糸球体疾患は高血圧を引き起こすことがあるため、血圧を測定します。さらに、血液検査やエコー検査も実施し、糸球体疾患の有無や進行度をより正確に判断します。
<猫の場合>
尿比重が低いかタンパク尿がある場合に、糸球体疾患を疑いUPCを測定します。UPCとは尿タンパク/クレアチニン比の略語で、タンパク尿を評価する際に用いられます。
UPCが基準値よりも高い場合、1〜2週間のうちに3回検査をしてタンパク尿の程度を詳しく確認します。3回とも値が高い場合は、血液検査やエコー検査を追加で行い、その結果に応じて治療方針を決めていきます。
治療方法
糸球体疾患の治療は、主に食事療法と投薬に分かれます。
食事療法では療法食を使用します。療法食はタンパク質の量が制限されており、腎臓への負担を軽減することで、尿中に漏れ出るタンパク質の量を減らすことを目的としています。また、塩分の制限も重要で、高血圧の管理に役立ちます。
療法食の切り替えや塩分の制限により、腎臓の負担が軽減され、病状の進行を遅らせることが期待できます。
投薬治療においては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が一般的に用いられます。これらの薬剤は血圧を下げることによって腎臓への圧力を減少させ、タンパク尿の改善を図ります。
予防法やご家庭での注意点
免疫異常によって起こりやすい糸球体疾患は、完全に予防することが難しい病気ですが、犬や猫の腎臓に負担をかけない生活習慣を心掛けることが大切です。
<室温の管理>
特に寒冷地にお住まいの方は、室温管理に気を付ける必要があります。夜間の暖房を切ると腎臓への負担が増える可能性があるので、寒い時期は夜も暖房を付けて、室温を一定に保つことがお勧めです。
特に高齢の犬や猫では代謝が落ち、寒さをより強く感じやすくなるため、こたつなどの固定暖房器具を利用してもよいでしょう。ただし、暖かい場所から動きたくなくなることもあるので、水飲み場やトイレはアクセスしやすい場所に配置することが大切です。
<水分補給の工夫>
水分補給は腎臓の健康を保つために非常に重要です。
猫は特に個体によって好みの水皿、飲むタイミング、水温が異なります。十分な量の水を飲むようにするためには、犬や猫の好みを理解し、対応することが大切になります。例えば、流れる水を好む猫にはファウンテン型の水飲み器を設置する、冷たい水が苦手な場合には室温の水を用意するなどが有効です。
どうしても水を飲まない場合には、ウエットフードやスープなど食事によって水分を摂取させるのも一つの方法です。
当院では Hydra Care PURINA 、viyo veterinary ZENOAQを使用しています。
まとめ
糸球体疾患は、腎臓の糸球体が損傷することで、本来血液中に留まるべきタンパク質が尿中に漏れ出てしまう病気です。この状態はタンパク尿と呼ばれ、浮腫、腹水、嘔吐などのさまざまな症状を引き起こすことがあります。
完全な予防は難しいですが、日常生活での工夫により、腎臓への負担を軽減することは可能ですので、ぜひ実践してみてください。
■当院の泌尿器に関連する病気はこちらで解説しています。
・猫の泌尿器疾患について|尿検査で見つかる病気がある
・猫の慢性腎臓病(CKD)について|高齢猫に多い病気
・犬と猫の結石について|結石は早期発見が鍵となる!
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